【なぜ運動は体に良い?】書籍『運動脳』に学ぶ、運動と脳の関係

つくる力

みなさん、運動してますか?
学生の方で運動部に入ってるならばほぼ毎日しているであろう「運動」。ですが大人になるとガクッと体を動かす機会がなくなり、運動するための時間も・場所もなくなっていることに気づきます。

運動に対する印象は人それぞれだと思いますが、“体には良いのはわかっているけどできない・する時間がない”という方は多いのではないでしょうか?

そして実際のところ、運動は私たちにとってどのようなメリットがあるのでしょう。そんな素朴な疑問に、面白い角度から答えを出してくれた本があります。それがこちら。

『運動脳』-アンデシュ・ハンセン

スウェーデンの精神科医でいらっしゃいますアンデシュ・ハンセンさん。医者・本の執筆の傍ら、テニス・サッカー・ランニングなど週に5日はスポーツに励むという、自身でも運動の大切さを体現している先生です。

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『筋肉が増える』『骨が強くなる』など普段私たちが運動に抱いている話題ではなく、運動は脳をどのように育てるのかという話が科学的に、かつ分かりやすく書かれています。

特に子供に運動をさせたい保護者の方々や、今まさに運動をしている学生さんにとって「こんな良いことがあるんだ!」と確認できる一冊なのではないかと思います。今回はその内容を簡潔にまとめてみました。さっそく、運動は私たちの脳にどんなメリットをもたらしてくれるのか、みていきましょう!

運動のメリット5選

さっそく結論です。骨・筋肉・内臓など体を構成するものの中で特に謎に包まれている“脳”は、運動によって様々な恩恵を得ることができます。

運動による脳への効果

⚫︎ストレスに強いになる
⚫︎集中力が増す
⚫︎衝動を抑えられる
⚫︎記憶力が良くなる
⚫︎創造性が高まる

予想通りのものもあれば、この効果も運動で?と思うものもあるのではないでしょうか。そしてこれら全ての効果は、試合に勝った人・優勝したチームという一部の人だけが得られるものではありません。一生懸命スポーツに取り組んでいるみなさん全員が確実にもらえるメリットで、普段何気なく過ごしている部活動の時間は、実は人の成長にとってとても有意義な過ごし方をしているのだと言えます。

どんな運動をすれば良い?

では、脳のためにどのような運動していけば上記の効果を得られるのでしょうか。実は書籍の中でも「これだ」と明確に示せる基準はありません。ですが、記載されている「運動をする際に意識したいこと」をまとめると概ね以下の通りです。

運動をする際に意識したい点

⚫︎習慣化すること
⚫︎心拍数をあげること

⚫︎最低30分以上のウォーキングから
⚫︎45分以上のランニングを週3できればベスト

⚫︎疲労感を感じる運動は負荷が強すぎる

脳にどのような効果を期待するかで運動の強度などは変わってきますが、より細かく気になる方は書籍をぜひ購入していただければと思います。が、どの分野でもおおよそ“正解”であろう条件は上記の通りです。

では、運動でのメリットを1つ1つ見ていきましょう!

ストレスに強くなる

ストレスを生むHPAメカニズム

“運動によってストレスが減る”というのは当たり前の印象かもしれません。ではなぜ、体を動かすとストレスは減るのでしょうか?それを知るにはまず、ストレスがどう生まれるかを知る必要があります。

私たちの脳は場所によって役割が違い、お互いが連携しあって機能しています。そして、ストレスが発生する際は「視床下部ししょうかぶ(H)」「下垂体かすいたい(P)」「副腎ふくじん(A)」と呼ばれる3部位が関係しあっています。HPAメカニズムと言われるこの作用によってストレスが発生するわけですね。

「嫌なことを言われた」「大事な場面になった」など何か刺激が加わると、脳の奥にある視床下部ししょうかぶがまず反応します。そこから下垂体かすいたい副腎ふくじんへとストレスの情報が伝えられ、実際にストレスの原因となるコルチゾールというホルモンが副腎から出されることで、身体に反応が起こります。

コルチゾールは身体を戦闘体制にしてくれるホルモンです。筋肉にたくさんの血液を送るため心臓を早く動かしたり、神経を研ぎ澄ませ集中力を高めてくれたりします。ですが、あまりにも刺激が加わりすぎるとこの反応が過剰になってしまいます。心拍数を上げすぎて苦しくなったり、わずかな変化に敏感になりすぎてしまい疲弊するなど、かえって身体に不調をきたすこの状態は上記のHPAメカニズムが制御不能に陥っているのです。

運動でストレスに反応しにくくなる

運動そのものも身体にとっては一種の刺激(=ストレス)です。例えばランニングをしている最中は、先ほどのHPAメカニズムによってコルチゾールの分泌が増えることで心拍数を上げ、血流を多くし長く走れる身体にしてくれます。

ここで大切なのは、運動を習慣化していること。習慣化することで運動から受ける刺激に体も慣れて、刺激を受けても少しのコルチゾール分泌で対応可能な体に成長していきます。つまり、ストレスを感じにくい状態に変わっていくわけです。

そして人の身体の面白いところは、この運動が習慣化された体は運動以外の刺激に対しても同じように少ないコルチゾールで対応することができるように変化することです。

「運動で体力や筋力がつく」ことと同様に、運動はストレスへの抵抗力も鍛えてくれるというのは嬉しいですね。

ブレーキ役の『海馬』『前頭葉』

また、HPAメカニズムが制御不能にならないように、司令役を担っているのが『海馬』『前頭葉』と言われる部分です。

例えるならこれら2つは、馬を操る騎手のようなものです。馬が暴れてしまわないように・暴れてしまっても落ち着きを取り戻せるように手綱をしっかり握り、冷静であるようにコントロールするのです。

脳が大きなストレスを受けてしまった際、過剰に反応しすぎないようストレス反応を抑えてくれるこの海馬と前頭葉ですが、運動によってレベルアップすることがわかっています。ストレスを受けても感情をコントロールする力が強くなるというわけですね。

ストレスに強いニューロンが増える

私たちの脳は“ニューロン”と言われる細胞が何億個もつながり合うことで出来上がっています。生活していくと新たなニューロンがどんどん誕生していくわけですが、運動によって生まれたニューロンの中にストレスに抵抗するホルモン「GABA」を生み出してくれるニューロンが誕生することがわかっています。

GABAは脳の活動を落ち着かせ興奮を抑える「消化器」のような役割をしてくれます。運動後に気持ちが晴れやかになるのは、ストレスに抵抗する働きが活性化されたGABAの影響です。

集中力UP

効果的に運動をすることで集中力に関係する脳の部位も活発になることがわかっています。

側坐核そくざかくという部位がそれにあたり、側坐核が刺激されると出されるのが『ドーパミン』という物質。実はこのドーパミンは脳にとって“ご褒美”の役割をしてくれます。脳がドーパミンを受け取ることで「この行動は良いことなんだ」と認識し、その行動を続けようとします。これが『集中力』の正体。

人の進化の過程において、運動する(行動する)ということは、食料を確保して生き延びることに直結したため、このような機能が元々備わっていたのではないかと言われています。

ADHDなど集中することが苦手な人は、ドーパミンを受け取る力が弱い(受容体が少ない)といわれています。

スポーツに必須な冷静さが身に付く

運動でストレスを減らすことができる理由に、『海馬』と『前頭葉』が関係していると先述しました。その中でも『前頭葉』は脳の中でも特に発達している部位で、冷静さに欠かすことができません。前頭葉は運動を定期的に行っていると、物理的にも大きく発達することがわかっています。筋肉と同様に、運動によって大きくなる面白い特徴があり、それほど運動に影響のある部位だと言えます。

前頭葉は…
☑︎理的、数学的に考える
☑︎何に集中するか決定する
☑︎衝動性を抑える
など、簡潔に言えば“理性的な行動”を取るための司令塔の役割を担っています。

運動することで前頭葉は他の脳の領域との連携が強くなりコントロールできるようになります。また、血流が増え前頭葉に溜まった老廃物が取り除かれることもあり、より前頭葉の働きが効率化します。その結果、どんな状況でも冷静に対処できる脳が出来上がっていくのです。

運動以上に記憶力を高められるものはない

運動によって記憶力が高まることも科学的に分かってきました。記憶で特に重要となるのが『海馬』です。そして、そこで作られるBDNFと言われるタンパク質が学習や記憶の力を高めています。

脳の天然肥料とも言われるこのタンパク質は、記憶力の向上以外にも、脳細胞を守る・成長させる・老化を抑えるといった「脳細胞が生きる上でのサポート役」をしてくれています。

そして、このBDNFを作ることができるのが運動というわけです。運動が定期的になればなるほど、その度BDNFの生成量も上がることもわかっているため、やはり運動の習慣化が重要ですね。

何かを覚えたい場合、軽い運動後あるいは動きながら覚えることが一番効率的!

柔軟な思考で大胆な発想

1つのことを深く考える・様々なアイディアを思いつく。このような力は一般的に「創造力」と言われます。創造力には「収束的思考」「発散的思考」の2つの見方で語られることが多く、どちらも大切な要素です。そしてこの創造力も、運動によって大きな影響を受けることがわかりました。

実験はシンプルで、創造力を試すテストを「座って受ける」か「歩きながら受ける」かに分けて点数を比較したものでした。

結果は、収束的思考では差が認められなかったものの、発散的思考を試すテストでは歩きながらテストを受けた方が60%も成績が良くったのでした。

数多くの文学賞を受賞されている村上春樹さんも日常生活の中で運動を取り入れていることを著書で述べていたり、アップルのCEOを務めたスティーブ・ジョブスさんも歩きながら会議を行なっていたことは有名です。その他、多くの偉人・アーティスト・起業家も運動を習慣に取り入れていると口を揃えていることから、運動は創造力に欠かせないプロセスと言えそうです。

では、運動はどのように創造力を高めてくれるのでしょうか?鍵となる脳の部位は視床ししょうです。

視床は脳の中央にあり、情報のフィルターの役割をしてくれます。24時間様々な情報を脳は感知していますが、私たちがそれを意識するべきか否かを取捨選択してくれる部位が視床です。

例えば歩いている時に、「肺がどれだけ膨らんで」「足の位置はここにあって」などは、実際起きていることですけどいちいち意識して歩いたりしませんよね。

視床が上手く機能せず情報に溢れてしまった結果、現実の世界が正しく認識できず「幻覚」や「妄想」といった症状が引き起こされる状態の代表が「統合失調症」です。

そして、視床が正しく機能するためには適切な量のドーパミンと、視床以外の部位が健康であることが必須になってきます。それらはどれも運動によって調整可能のため、結果的に運動=視床を正しく機能させることにつながります。

最後に

今回は書籍『運動脳』より、運動が脳に与えるメリットを紹介しました。専門用語も混ざっていますが、脳科学のお話としてはかなりわかりやすく書かれており、普段何気なく「運動は体に良いもの」という認識がより明確になる一冊かと思います。

今一生懸命部活に励んでいる学生さんや運動をさせたい保護者の方も、「運動をする意味」を考える上で参考になるのではないでしょうか。

今回の記事で紹介できなかった内容や運動の細かい設定・実験データのお話など、気になる方は一度手にとってみてくださいね。

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