【ココミルvol.2】腰椎分離症

ココミル

ココミルシリーズ、第2弾は腰椎分離症ようついぶんりしょうについてです。

‘‘こしが痛い’’というのは、もしかしたらおじいちゃんおばあちゃんが良く言うセリフというイメージかもしれませんね。ですが、この分離症は成長期という骨が未発達な時期に発生する腰の怪我です。なぜこの怪我を取り上げたかというと‘‘その時にしか治らない’’ということを知って欲しいからです。治療する時期を逃してしまうと大人になっても腰の痛みと付き合うことになってしまう。そんなリスクを減らすために、ぜひ分離症のこと知っておいてくださいね。

記事の要約

  • 腰椎分離症は、成長期に発生する腰の疲労骨折
  • 腰を反る、ひねる動きが多いスポーツで多発する
  • 治すために休まなければならない期間が長い
  • 「腰椎分離すべり症」への進行は絶対に防ぐべき
  • 怪我した選手と周囲の人たちの理解も大切

腰椎分離症とは

腰椎分離症は骨の強さが不十分な成長期に発症する腰の骨の疲労骨折です。クリニックで勤務していた際には、腰の痛みを訴える学生が来院すると分離症の可能性を疑い、MRIやCTなどでしっかりと確認していました。

分離症の有無で、腰への治療方法がガラッと変わります

では、腰のどの部分が疲労骨折してしまうのでしょうか?

腰の骨は、体を支えるための太い幹と、他の骨と連結するための羽がはえたような構造をしています。そしてこれが1つ1つブロックのように腰から頭まで積み重なって背骨を作り上げています。

積み重なり羽と羽が上下でかみ合うことで、腰の骨がグラグラしすぎないようになっています。

疲労骨折が発生するのは、まさにこの噛み合わせの部分腰を反ったりひねったりする動作が多いと、羽同士がぶつかり合います

(図はネッター解剖学アトラスより引用)

これら、反る・ひねる動きがスポーツ中に何度も繰り返し起こることで骨に負担がかかり続け疲労骨折に発展してしまいます。やがて骨にヒビが入り、幹と羽の部分が離れてしまうため‘‘分離症’’と呼ばれています。

ねんざのような、一回の大きな動きで起こる怪我ではなく
日常生活や普段の練習の積み重ねで発生します

これがあるから厄介

分離症は自分の中でも厄介な怪我の代表です。その理由として…

運動をしてはいけない離脱期間が長い

日常生活に支障が出る

③将来の健康に大きく影響する分離滑り症の存在

この3点があげられます。順番に見ていきましょう。

①長い離脱期間

運悪く分離症となってしまったあなた。さて、腰を治すためにはどれくらい運動を我慢しなければいけないでしょうか?

1週間?
1ヶ月?

分離症が発生してどれくらいの期間が経っているかにもよりますが、初期の段階でも3ヶ月の安静期間が必要とされています。

骨がどれくらい痛んでいるのか?骨折しているのか?痛んでどれくらい経っているのか?どれくらいの骨折か?片方?両方?分離症のレベルによって、安静期間は様々です。

筋力や柔軟性・心肺機能の低下をできるだけ最小限にしたいところですね。

安静期間でも可能なストレッチ・トレーニングはあります。しっかりと専門家の意見を聞いて行いましょう!

②日常生活に支障が出る

さらに嫌なことに、競技を休むだけではなく日常生活・学校の体育も安静にしなければいけません。

体育を休まざるをえず、初めて成績が落ちたという選手もたくさんいました

分離症は「反る」「ひねる」動きが多いと発生すると先ほど述べました。分離症と診断されると日常生活でもこれら2つの動きをしないように注意して過ごさなければいけません。

・うつ伏せでスマホを使う
・後ろの席にプリントを渡す

・寝返りをうつ…など

日常生活には反る・ひねるがたくさん隠れています。それら1つ1つの動きを気をつけなければ、分離症は回復していきません。

安静を取り始めると、1週間ほどで強い痛みは消えてくれます。ですが骨は治っていないため、逆に「ダメな動きをしても痛くない」という状態になります。ダメな動きにはさらに注意しなければなりませんね。

分離すべり症への進行

「3ヶ月も部活を休んだら試合に出られない」
「我慢できる痛みだから大丈夫」

このように、分離症に気づかないor気づいても無視していた場合、どんな未来が待っているでしょうか。結論から言うと、腰の骨がすべってずれていきます

腰の骨は幹の部分と羽の部分が重なり噛み合うことで安定しています。しかし、分離症ではその2つの部分が切り離されてしまうため、幹の部分が少しずつズレていってしまいます。

画像:State of the Art in the Diagnosis & Treatment for Lumbar Spondylolysis.(西良浩一.2011)より

このように、分離症から発展し腰の骨がズレてしまった状態を「腰椎分離すべり症」と言います
本来「腰椎すべり症」とは50歳以降で発症することが多く、長年の歳月をかけて腰に負担がかかり発生する障害です。ですが、分離症を放置することで成長期にすべり症が起こってしまいます。腰の強い痛みや足の痺れを引き起こすこの障害は、スポーツをする上で、あるいはこれから社会に出て活躍していく上で大きく支障をきたします。

こんな子が多い!腰に負担がかかる体の特徴

スポーツをしている人が全員分離症になるわけではありません。分離症になる理由が必ずあります。スポーツ現場を見てきて、こんな選手が腰の痛みを訴えやすいなという事例を下記にまとめてみました。当てはまる方は、ストレッチやトレーニング習慣を見直してみましょう。

①柔軟性がない

まずは体にしっかり可動性があるかはどのスポーツにおいても重要です。どのようなスポーツをしているかにもよりますが、基本的には股関節・むね周り(胸椎きょうつい胸郭きょうかく)の柔軟性が大切になってきます。

ももの付け根

ももの付け根には、腰と太ももをつなぐ<腸腰筋ちょうようきん>があります。硬いと股関節の可動域が低下したり、腰が反りやすくなります。

おしり

大臀筋だいでんきん>など、おしりの筋肉は骨盤から股関節を大きく覆うようについており、こちらも硬いと股関節の柔軟性が下がります。

もも前

もも前にある<大腿四頭筋だいたいしとうきん>はスポーツをする上で大きな役割を果たしてくれます。たくさん使われる分、ストレッチを怠ると硬くなりやすく、腰にも負担がかかります。

ももうら

<ハムストリングス>はもも裏にある筋肉の総称で、硬いと猫背になりやすかったり、大きく足をふりかぶれない要因になります。

むね周り

大胸筋だいきょうきん>は胸につく大きな筋肉です。硬くなると肩を丸めてしまうため、腕や胸回りを使うスポーツでは柔軟性が特に必要です。腰だけではなく肩の怪我の原因にもなります。

背中

腰から背中に大きく張られているのが<広背筋こうはいきん>です。こちらも肩の可動性を下げ、特に腕をあげる(バンザイをする)動作の邪魔になります。

②体幹の安定性がない

柔軟性と同様に腰回りの安定性も大切になってきます。もともと、分離症は腰を反ったりひねったり「動きすぎてしまう」ことが原因となるので、腹筋などの力で、腰回りを固めることができるかが大事です。それに加えて、腰回りを安定させたまま手足は動かせるという力があることもスポーツをする上で必要とされます。

よく体幹トレーニングとして左図のような【プランク】が挙げられます。

これを例にとって説明すると、まずそもそも体幹(腰)をまっすぐにキープできる力はあるかというレベルからスタートです

体幹を安定させる力が備わったら、今度は<体幹はまっすぐに保ったまま、手足は動かせるか>とレベルアップしていきます。

右図は左足を動かしていますが、この時、腰も動いてしまうと安定性としては不十分となります。

T字バランスのように、片足で立った状態という不安定な状況でも腰を安定させることができるかなど、トレーニングの負荷の上げ方は様々です。

体幹トレーニングは様々な種類があり、分離症だからこれをやるという決まったルールはありません。上記もほんの一例ですので、トレーニングをする際は必ず医師などプロの指示のもと行ってくださいね。

③腰に負担のかかる動きをしている

分離症になる選手の体の使い方・動き方も特徴的です。柔軟性がどうかという視点ではなく、どのような動きをしているかが大切になってきますが専門知識が必要になってくるため「そんな視点でチェックするんだな」というザックリとした印象を持っていただければ十分です。

前屈/後屈

前屈・後屈は腰だけではなく、背骨全体・骨盤・股関節と全身の動きを観察することができます。

・綺麗なカーブを描いているか

・動きすぎている部分はないか

・動いていない部分はないか

など、細かく動きを見ていきます

背骨・骨盤・股関節、どこかの動きが硬いとその他の部位で足りない分の動きを補おうとします。動きをカバーした分、ストレスが増えて怪我の原因になってしまいます。

ひねり

前後の動きだけではなく、ひねり動作もチェックします。写真は座って動作を確認していますが、立ってひねる動作を見ることと組み合わせてやることが通常です。

動きを見ることを「動作分析」と言いますが、ここはもちろん専門的な知識が必要です。ぜひ理学療法士などプロの目に頼って、説明を受けてみてくださいね。動き方のくせやその原因までしっかりアドバイスしてくれるはずです。

‘‘分離症’’と診断された選手に対しては、上記の反る・捻るのチェックは行いません。まだ分離症ではなかったり、分離症でも骨が治って運動の許可が出た選手に行います。

分離症と向き合う上で大切なこと

早期に病院受診する

大人と違い、子供で腰が痛くなるというのはなかなか異常なことです。痛みを感じたら早めに病院を受診しましょう。この際、整骨院ではなく、レントゲン・CT・MRIのある病院に行かなければ分離症かどうかを判断できませんので注意してください。
分離症が見つかっても早期に復帰できる可能性が高まりますし、もし分離症がなくても腰に負担のかかる動作を何かしらしているはずですので、リハビリ等で日常生活指導やトレーンング指導をしてもらえると理想的ですね!

腰に負担がかかる動きをしっかり理解する

分離症が発覚すると、病院からは運動中止・安静の指示が出されると思います。ですが、スポーツだけを休めば治るわけではなく、日常生活から腰に負担のかかる動きをしていると絶対に治りません。むしろこのしてはいけない動きを理解し守り続けられれば、分離症の治療は8割方終えてると個人的には思っています。早くスポーツ復帰するために、日常生活の動きをしっかり気をつけていきましょう!

精神的なサポート

長い安静期間に加え、痛みも全然なく、だけども運動はできずキツくて暑いコルセット生活をしている選手。イライラして動きたくなったり、ついダメな動きを日常生活でしてしまうこともあるかもしれません。そんな時に必要となるのが周囲のサポートです。

運動はできずともチームに必要なこと、スポーツ以外での頑張りを評価されていることなど、怪我で苦しむ選手が居場所を感じられるシーンは多くあります。
また、選手自身も普段から運動だけを頑張って私生活は全く信頼される行動を取れていないと、この怪我のようなスポーツから離れなければいけない時に‘‘弱い’’印象があります。怪我をした本人も、周囲にいる人も思いを共有して治療していきたいですね。

最後に

今回は分離症・分離すべり症についてまとめてみました。身近にある怪我の中でも厄介な怪我ですが、しっかり治しながらも大切な大会に復帰していく選手もたくさんいます。ですが、その過程でやはり選手はもどかしかったりして、治療中にたくさん愚痴を聞いたりもしました。

まずは、自分の体からの‘‘腰が痛い!’’というサインを見逃さず、保護者や監督にしっかり相談しましょう。そして何より、普段からストレッチや筋力強化・正しいフォームを身につけるといった基本的な習慣を身につけて最大限予防していきましょうね。

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