今回は暑さ対策についてお話します!
さっそくですが次の表をご覧ください。こちらは2014年にブラジルで開催されたサッカーW杯での調査です。
天候による選手へのストレス(環境ストレス)を「低い」「適度」「高い」に分類し、その時の試合数・出されたイエロー/レッドカード数がまとめられました。皆さんはこちらの表をどう読みますか?
環境ストレスが低いとイエローカードは多いけどレッドカードが出されることはなかったんだね。
逆に環境ストレスが高いと、試合数が少ない割にレッドカードが4枚も出されていますね
サッカーのディフェンスを想像してみましょう。良いプレーと危険なプレーは紙一重です。イエローカードが多いということはそれくらい絶妙な力加減・正しい判断力で相手にプレッシャーを与えることができていたのかもしれません。環境ストレスが強くなることによって、力加減や判断力が鈍ってしまい危険なプレーによるレッドカードが多くなったのではないかとも考察することができます。
研究では、環境ストレスが高いほどスプリントの回数が減りパスの回数が増えたことも明らかになりました。走るよりパス回しで運動量を調節していたのではないかと考えられています。
簡単にいうと、「暑い」っていう環境はスポーツ選手に大きく影響するっていうことだね
その通り!そのため、暑さ対策はパフォーマンス低下を防ぎ、大きな怪我を避けることにもつながります。
ということで、今回は暑さ対策について
- 暑さによる身体への悪影響
- 脱水状態の身体について
- 誰でもできる暑さ対策
こんな切り口でご紹介したいと思います!
毎年のように熱中症のニュースが飛び交いますが、暑い季節を迎える前にベストな状態でスポーツを楽しめるように知っておくべき身体のこと・対策をまとめました。記事を読み終えた時、何か1つでも夏に向けて行動してくれたら嬉しいです。
まとめ
- 体温を調節するため脳が過労を起こしパフォーマンスが下がる
- 脱水状態が脳の疲労を加速させる
- 暑さ対策が大きな怪我の予防にもなうる
- 暑さ対策は身近に出来ることが多い!
- 今日から自分なりの対策を1つでも意識し身体を作ろう
なんで暑いだけで疲れるの?
体温を一定に保つため
脳がフル稼動するから
暑さがどう身体に影響するかを知るために、「まず体温って何?」というところを整理しなくてはいけません
体温は厳密にいうと「深部体温」と「皮膚温」に分かれます。僕らが生活の中でよく言う体温は深部体温のことを指してることが多いです。
【深部体温】
脳や心臓など生命活動を営む上で大事な臓器がある場所の温度で、常に一定の温度( 約37℃)に保たれています。
【皮膚温】
環境の影響を受けやすく温度が変化しやすい。
この記事では、体温を「深部体温」のことだと思って読んでくださいね
氷点下で雪が降っていても、サウナに入っていても、僕らの体温はおおよそ37℃前後に保たれています。この体温が1℃違うだけでも体調に異変が起きるほど身体は体温の変化に敏感です。
プラスにもマイナスにも体温が数度違うだけで身体に症状が現れ、その先に待っているのは命の危険です。そして、身体がそんな危機的な状況にならないように、体温を感知し調節してくれているものこそ「脳」というわけです。
脳が‘‘体温が高い’’と異常を感じると、全身の様々な部位に働きかけ身体から熱を逃そうとします
脳の視床下部という部分が僕らのサーモスタット(熱探知機)で、熱が上がりすぎると脳は身体の色々な部位に命令を出し「放熱」します
「暑い環境に長時間いる=脳の働きがハードなり、しかも休む暇がない」
このような状況では脳に疲労がたまり、放熱以外の働きまでおろそかになってきてしまいます
スポーツに必要な「状況判断」「力を入れる・抜く」など、身体を動かすために脳がもともとコントロールしていたことができなくなってくる。それが怪我のリスクを高めてしまいます。
そう考えると、最初に出てきた表でレッドカードが多い理由も納得だね
この危険な状況をさらに悪化させるのは脱水状態です
- 体温管理は脳が行なってくれている
- 体温が高くなりすぎないよう、脳が全身へ司令を出し熱を逃がすように働きかける
- 暑い環境に居続けることで働き続けている脳に疲労が溜まる
- エネルギー切れとなった脳は次第に働きが鈍くなり全身のパフォーマンスも下がる
- 脱水が脳の疲労をさらに加速させる
脱水のメカニズム
放熱が長時間に及び
脱水状態になる
体温変化に関わる要因
下の図は、体温が様々な要因で変化するということを図示したものです、難しい言葉もあるのでざっくり見ていただければOKです。赤い矢印は体温を上げる・青い矢印は体温を下げる作用があります。
この図の青い矢印で表している体温を下げる作用、これが身体から熱を逃す「放熱」という作用です。この放熱に関して、一番効率の良い方法が、汗を出し蒸発させて放熱する方法です。しかし、この放熱状態が長時間続くと、体内の水分がどんどん汗として出ていってしまうのです。
身体を守るために行う放熱が長く続くことで脱水を引き起こします。
脱水状態の体
脱水状態になると身体の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。体内の水分を、川の流れに例えてみると分かりやすいかと思います。
水分が十分=川の水が豊富に流れていると、栄養豊富で綺麗な水が駆け巡ります。体内でも血液が身体中を駆け巡っている、いわば循環の良い状態となるため、不要物は溜まることなく排出され、栄養は脳に十分に届き働きを助けます。
川の淀みも流されて綺麗になるように、身体の循環が良いと血液も綺麗!
一方で、脱水状態は川の流れが悪くなっている、つまり体内の血液のめぐりが悪くなり栄養や不要物が循環されていない状態と言えます。
体内では脳に栄養が行き届かず、暑さ調節で頑張っている脳をサポートする栄養が足りなくなり働きが低下していきます。
「体温調節で疲れてる+栄養が届かない」のダブルパンチで脳の疲労が加速するってわけだね
その通り。脳が疲労するとパフォーマンスが落ちることは既に学びましたね
- 体温が上がりすぎないように、身体は放熱して調節している
- 放熱に一番効率が良いのは発汗と蒸発で熱を逃がす方法だが、体内は脱水状態に陥る
- 脱水状態は全身の血流が悪くなり、栄養や老廃物が循環しなくなる
- 体温調節をしている脳にも栄養が行き届かず、疲労がさらに蓄積される
暑さ対策
暑いことで脳が疲れ身体のパフォーマンスが下がるということを少しずつ理解していただけたでしょうか。ようやくですが、対策の話に移りましょう!
暑い環境+脱水が身体に悪影響をもたらすのであれば、その両方にアプローチしていく必要があります。
身体冷却法
暑い時はウチワで顔をあおいだり、冷たいものを食べたくなりますよね。暑さ対策も体を冷やすこと(身体冷却)が大切になってきます。
疲労回復を目的とした身体冷却もありますが、今回は「暑さ対策」の視点で考えますね
まず冷却にはざっくりとですが、『外部冷却』と『内部冷却』の2つの考え方があります。身体を外から冷やすか・中から冷やすかの違いです。
▷外部冷却
氷嚢や送風など身体を外から冷やす方法で、皮膚温や深部体温を効果的に低下させることができます。特に冷水浴は冷却効率が高いことが分かっています。
▷内部冷却
身体の内側からの冷却方法。冷たい飲料やアイススラリーなどを摂取することで冷却を行います。
この2つを組み合わせて、様々な冷却方法で熱のこもった身体を冷やしていく、あるいは暑くなりすぎないように前もって身体を冷却させていきます。
下記に冷却方法と特徴について引用してまとめております
細かいのですが、ここではどんな冷却方法があるかをざっくり把握していただければOKです
スポーツ現場では外部冷却・内部冷却を組み合わせ、上記以外にも冷却する時間帯・選手の好き嫌いなども判断してチョイスします
簡単に出来るオススメ冷却法
1)濡れタオルで身体を拭く(+送風)
濡れタオルで身体を拭くことで、水分の蒸発により放熱することができます。そこに送風があるとより冷却効果が期待できます。部活中では乾いたタオルで汗の処理をすることが多いと思いますが、暑さが厳しい日は濡れタオルを1つ別に持っていき、汗の処理+濡れタオルで体を拭くとバッチリです!爽やかになり気分も晴れますよ。
2)手を冷やす
手は身体の中で最も露出している部位の1つであり、動脈と静脈のバイパスとなる血管があるため効果的に全身を冷やせます。冷水(10〜15℃)がベストで、冷たすぎると逆に血管が収縮しすぎてしまうので、指の動きが鈍くなるなど、冷やしすぎにならないよう注意しましょう。
3)冷たい飲料を飲む
水筒にしっかり氷を入れていますか?給水は水分補給以外にも内部冷却の側面も持ちます。また、スポーツドリンクなどを使えば同時に栄養補給も可能です。飲みたい時に飲む「自由給水」と、喉の渇きを自覚していなくても30分に1回は給水するなど決まった頻度で給水する「計画的水分補給」を上手く組み合わせたいですね。
暑さに強い体作り
専門的な言葉を使うと『暑熱順化』と言いますが、単純に普段から暑さに強い体を作っておこうということです。
暑さが心配された2020年東京オリンピックでも、暑熱順化の考えが大切にされました(IOCが発信していた)。
そもそも‘‘暑さに強い体’’ってどういうこと?その人の生まれつきの体質じゃないの?
良い質問ですね!暑さに強くなると身体には下記のような変化が起こっています
Q.暑熱順化する(暑さに慣れる)と身体はどうなる??
・運動の早い段階で血管を広げて放熱を促すことができる
・発汗のタイミングも早くなり気化熱による放熱が上がる
・汗の塩分濃度が低下し身体の栄養バランスを保ちやすくなる
・心臓が一回に送り出す血液の量が多くなる
など、暑さに慣れた身体はこのような状態になっています
暑さに強い身体=放熱しやすい身体、汗で栄養を逃す量が少ない身体ってことだね
生活習慣やトレーニングで誰でも暑さに強い身体を作れると言えますね
暑さ対策トレーニングを開始すると4日程度で身体の反応が変わってきます。そこから最適なパフォーマンスを発揮させると考えると、7~10日が必要と考えられています。さらに、普段から強度の強いトレーニングをしているとその日数は短縮(早く暑さに慣れる)されますし、トレーニングが出来ない期間が続けば元の身体に戻ってしまいます(12日〜26日で効果が消失)。大切なことは、普段からしっかりと運動をし身体に負荷をかける習慣が身についていることです。
下図は暑さの負荷の一例です。身体の外から・内から、負荷をかける方法は様々です。
・体外からの負荷を調節
屋外に出る、室内を暑くする、サウナを使う、風通しの悪い服を着る
・体内からの負荷を調節
運動量、強度、時間
怪我や疲労で動けない状態でも、お風呂やサウナを使うことで暑さ対策ができます
ここで1つ質問です。
皆さん、歩いて登校していますか??
歩いて登校することは暑さ対策の観点からも大変重要な意味を持ちます。毎日の積み重ねになりますし、徒歩圏内と言うことで身体への負担も大きくないからです。徒歩圏外の方は、昼休みに友達と体を動かしたりと空き時間を有効活用できれば素晴らしいですね。
暑さ対策をしていくと、身体が素早く発汗できるようになる…と、言うことは脱水に注意ですね。
脱水対策
脱水の身体がどのような状態かは先ほど述べました。おそらくスポーツをされてる方は給水の意識は高いのではないかと思います。そこで、もう一歩レベルアップとして体重管理を取り入れてみませんか?
暑さ対策と体重管理、どういう関係があるの?
答えはシンプル。身体からどれくらい水が出て行ってしまったのかを把握するために、体重測定が必要なんです。
運動前と後の体重を比べてみましょう!変化がある場合、その分身体の水分の量が変化したと考えてOKです。急に筋肉や脂肪が減ることは考えにくいからです。体重の2%の水分が失われてしまうと‘‘脱水状態’’です。下の表を参考に、自分がどれくらい体重が減っていたら危険サインなのかを把握しておくと良いですね。
ざっくり、各体重の2%を表にしてみました。例えば、体重50kgの選手が運動後49kgになっていれば、症状がなくても身体は脱水状態です
もし脱水状態になっていたら、練習中の水分補給の量を見直しましょう
普段自分がトレーナーをしていて気になるのは水筒のサイズです。大きな水筒を持ってくることは確かに大変ですが、部活中に飲んでいる量や運動後の体重を1つの目安にして決めるのも良いかもしれません。また、女子選手に多い印象ですが体重を計ること自体に抵抗がある方は少なくないと思います。太った太っていないの物差し以外に、暑さ対策、つまり「体重測定は身体を守るんだ」という視点でみると少し体重測定にポジティブになれるのではないでしょうか?ぜひ、トライしてみてくださいね。
子どもは大人と比べて体温の上下動が大きかったり、運動中喉の渇きが感じにくかったりします。そのため、自由な給水に加えて定期的な給水(計画的水分補給)も取り入れ水分補給の機会を作ると良いですね。
- 手軽にできる暑さ対策を取り入れ、自分に合う合わないを判断していく
- ‘‘身体を守るための体重測定’’で、自分のノーマルの体重を把握しておく
最後に
暑さへの対策はパフォーマンスの向上・怪我の予防になる大切な項目です。暑いことで起こる代表的な障害に熱中症が挙げられますが「梅雨明けの蒸し暑い日」や「梅雨の合間に突然気温が上昇した日」に起こりやすいとスポーツ庁が注意喚起をしています。それほど、急な環境の変化は僕らの身体にとって負担であるといえます。
暑さ対策を難しく考える必要はありません。私生活を見直し、浴槽での入浴・徒歩での登校・外あそび・体育の授業への参加などがトレーニングになりますし、自分の持つ水筒の大きさ・中身を考えることも対策の1つです。ぜひトライして暑さを乗り切り、熱いシーズンにしていきましょう!
今回は以上です。したっけね〜
<参考文献>
・Nassis GP, Brito J, Dvorak J et al.:The association of environmental heat stress with performance: analysis of the 2014 FIFA World Cup Brazil.Br J Sports Med, 49:609-613,2015.
・スポーツ現場における暑さ対策 スポーツの安全とパフォーマンス向上のために.長谷川博.有限会社ナップ.2021