足首の捻挫は正式に【足関節捻挫】と言われ、スポーツ中の怪我の45%を占める怪我と報告している研究もあるほどスポーツ現場で多く見られる怪我の代表例です。自分自身や周りの選手が捻挫経験のある人も多いのではないでしょうか?
一方で、その身近な怪我であることが
‘‘足の捻挫はよくある怪我だ’’
‘‘スポーツには付きものだ’’
とかなり軽視されている怪我とも言えます。実際に、捻挫だけでは病院にかからない人も多く、しっかり完治してから競技復帰しないケースが多くいます。
ですが、捻挫を放っておく、あるいは中途半端に治療を終えてしまうと様々な障害が発生することがわかっています。今回は、そんな足関節の捻挫についてまとめてみましたので、スポーツを行う上での何かのヒントになれば嬉しいです。
記事の要約
- 強い負荷がかかり関節の限界を越えてひねった怪我を捻挫という
- 捻挫は、靭帯などの関節を守る組織が傷ついていることが多い
- 中途半端な治療や原因の放置で、捻挫は再発しやすくなる
- 復帰時期を専門家と相談しつつ、予防や再発防止をしていこう
捻挫とは
そもそも捻挫とはなんなのでしょうか?
日本整形外科学会のホームページでは
- 関節に力が加わっておこるケガのうち、骨折や脱臼を除いたもの
- 靭帯や腱というような軟部組織といわれるものや、軟骨のケガ
と明記されています。
難しいですね。解説していきます。
私たちの関節は様々なものに守られています。
たとえば…
▶︎ロープの役割をしている靭帯
▶︎筋肉やそれと連動してくれる腱
▶︎関節全体を包む関節包
そして捻挫は、靭帯の強さなどの限界をこえて関節に負荷がかかり発生するケガというわけです。
つまり、捻挫をしたら関節を守るものが何かしら傷ついていると考えられます
「捻挫はよくあるもんだ」と言えない理由がここですね。靭帯などが損傷しているケースがほとんどなので「足首ひねりました」の一言には、いろんな怪我が隠れています。
外側靭帯損傷
「足首をひねりました」と聞いて、僕らトレーナーがまず想像するのが外側靭帯損傷でしょう。足の裏が内側に向くようにひねることを「内反捻挫」といいますが、この内反捻挫を止めてくれているものが外側靭帯です。
左図のように、足首の外側についている3つの靭帯を合わせて外側靭帯と呼び、足首の捻挫ではこれらの靭帯が傷つくことが多いです。
特に、①と②の靭帯を片方だけor両方同時に損傷するケースが多く、カカトの方にある③の靭帯が傷つくことはまれです。
(画像:プロメテウス解剖学アトラスより)
靭帯が完全に切れてしまっているのか・部分的につながっているのか、切れた靭帯は何本か等で怪我のレベルが変わります。
内側靭帯損傷
うちくるぶし側にも靭帯はあります。
複数の靭帯が重なりあうように走行しており、まとめて「内側靭帯」と呼びます。(三角靱帯とも呼ぶ)
(画像:プロメテウス解剖学アトラスより)
足の裏が外側に向くようにひねる「外反捻挫」で傷つきますが、上記に挙げた「内反捻挫」でも痛むことがあります。「足をひねって外側も痛いけど内側も痛い」という選手はこの靱帯の怪我を疑います。
内側には靭帯以外にも、骨同士がぶつかりやすいところや、筋肉・腱もあります。靭帯の痛みでなければ2〜3日で改善されていくことが多い印象です。
前下脛腓靱帯損傷
足首を捻挫した際、脛に近い部分が痛いという訴えもしばしば現れる症状です。
ふくらはぎを構成する骨は2本あり、それぞれ腓骨・脛骨といいます。足に体重が加わったり足をひねった時、この2つの骨が離れる力が発生します。
この時、腓骨と脛骨をつなぎとめてくれているものが前下脛腓靱帯です。
体重が加わった際の強い衝撃や、捻挫時のひねる力に耐えきれなくなった際に、この靱帯は損傷します。
足部捻挫
足首よりもつま先側を「足部」といいますが、そこでも捻挫は発生します。
足部はいろいろな形をしたブロックを重ねたり繋げたりしてできあがっていますが
カカト側を「後足部」
つま先側を「前足部」
その間を「中足部」
と呼び分けられています。
足をひねってから、足の甲が痛い・小指側が痛いなどの症状はこの前足部や中足部をひねっている可能性があります。
そして、それぞれの関節に名前が付けられており(覚えなくてOK)、少し紹介すると左図の通りです。
怪我をした際に「リスフラン関節捻挫」などの診断名がつくかもしれませんが、‘‘この辺の関節なんだなぁ’’と把握できれば十分です。
(画像:プロメテウス解剖学アトラスより)
捻挫ぐせの特徴
‘‘捻挫はくせになるよ’’
‘‘昔からよく足はひねるんだよね’’
こんな言葉、一度は聞いた経験や実際に言ったことはありませんか?
実際に足首の捻挫を何度も経験している選手は多く、言葉通り「くせ」になっていることがあります。ですが、そんな選手には特徴があります。
①1回目の捻挫を治しきらずに復帰した
②体の硬さや筋力不足をそのままにしている
思い当たることがないか、詳しくみていきましょう!
①捻挫を治しきらず復帰する
足首の捻挫は‘‘よくある’’怪我という認識が強いです。そのため「これくらいで練習を休めない・休みたくない」という気持ちが芽生えてくることが多い印象です。
では、捻挫をしっかり治さずスポーツ復帰するとどうなるのでしょうか。それには、靭帯がどのように治っていくかをざっくりと知っておく必要があります。
分かりやすいように、靭帯を家に見立てて解説していきますね
①炎症期
この時期は壊れてしまった家のガレキの撤去や、家を作り直すための素材集め、そこまでいくための道路整備がなされていく時期です。そのため、腫れが起きたり、痛みを出して‘‘動かさないで’’のサインを私たちに送ってくれます。およそ怪我をしてから3日間続きます。
②増殖期
必要な素材を集めつつ、少しずつ家を建て直していく時期です。ですが、強い素材ではなく柔らかい素材で家を作り直し始めます。怪我をしてから6週ほどかけて‘‘弱い家’’が出来上がります。これから強い家を作っていくために、あえて家にストレスをかけていく必要があります。靭帯としては、この時期から「少しずつ走って良いよ」と言われることが多いかと思います。
③再構築期
柔らかい素材に鉄骨を組み込んだりして‘‘強い家’’を作りあげていく時期です。鉄骨の向きなどで強さは変わるため、怪我をしてから10週をかけて向きを調節し強い家を構築します。靭帯としては、元の競技に近いレベルまで徐々に負荷を大きくしていく時期です。ですが、最終的な家の完成までは約12ヶ月かかり、完成しても元の家の強さにはならないと言われています。
この靭帯が治る過程で正しい処置をしなかったり、まだ弱い靭帯なのにスポーツ復帰してしまうと、当然しっかりとした靭帯は作られず、捻挫しやすい足が出来上がります。
最終的に、靭帯を治そうとする体を無視して運動を続けると靭帯はなくなってしまいます。これを退縮と言います。そうなると、手術で靭帯をもう一度作り上げるしか方法がなくなってしまいます。
②怪我した体の状態を改善しない
『どういう状況で怪我をしたのか』という受傷機転はとても大切な情報です。
自転車に乗って、怪我をしてしまった場合を想像してみましょう!
例えば、車とぶつかって怪我をしてしまうこと。これは自転車の運転に慣れた大人から、自転車に不慣れな小さな子にも起こりうることですよね。
この場合、受傷機転は車にぶつかったという「不運な事故」になります。
一方で、
・操作を誤って転んでしまった
・障害物に気づけず転んだ
など、自分のスキルや注意力の不足で起こった怪我の原因は自分にあります。
足首をひねる場面でも同じことが言えます
自分以外に原因があるパターン
・相手の足を踏んでしまった
・相手とぶつかった
・床が濡れて滑ってしまった
自分に原因があるパターン
・方向転換でひねった
・段差に気づかなかった
・着地に失敗した
この2つには怪我の予防方法に大きく違いが生まれます。
自分に原因があるパターンは、それを改善することが‘‘予防’’になります
『筋力が弱い』『正しいフォームで動いていない』『体重が重すぎる』『柔軟性がない』…。怪我の理由は人それぞれですが、怪我の原因を放置していたら同じ理由で怪我をする可能性は変わりません。何が原因になっているかを専門家のアドバイスの元、しっかりと把握して、できうる予防をしていきましょうね。
まとめ
今回は、スポーツを行う上で身近な怪我とも言える「足首の捻挫」についてまとめてみました。
また、捻挫をしてしまった際にいつ復帰できるのかは専門家と相談して決めなければいけません。
・大会が近い
・痛くなければやりたい
・テーピングで固めて欲しい
など、いろいろな感情をまずは素直に専門家にぶつけてみましょう。それでもほとんどの専門家はリスクを説明してくれ、冷静な判断をしてくれるはずです。
捻挫をすることは当たり前ではありません。
‘‘ひねりやすい体’’でまとめないで、専門家にアドバイスをもらいながらしっかり対処してスポーツを楽しんでいきましょう!